獣害対策例4選!イノシシやシカの被害の原因と対策方法
獣害対策とは、シカやイノシシなどの野生動物による農林業被害を防ぐために行う防除や管理の取り組みです。
日本各地で、農地や森林がイノシシやシカによる被害に悩まされています。私たちも現場で、柵を越えて侵入された、
設備を壊されたといった声をよく耳にします。被害額は年間200億円近くとも言われ、もはや一部の地域だけの問題ではなくなっています。
そうした状況の中で、他の地域ではどう対策しているのか、自分たちにもできる獣害対策はあるのか。
そうした相談をいただく機会が増えています。
この記事では、福井県で森林保護資材の製造・販売を行ってきた当社が、獣害の意味や、おすすめの獣害対策の例をご紹介します。
Index
獣害とは?
獣害(じゅうがい)とは、野生動物によって人間の生活や産業に損害がもたらされることを指します。
農作物を荒らされる「農業被害」や、人家への侵入・ゴミ漁りなどの「生活被害」、そして近年増加傾向にあるのが、森林での苗木や樹木への食害・掘り返しといった「林業被害」です。
特に森林分野では、シカやイノシシによる若木の食害や、成木の樹⽪剥ぎ(シカハギ)などが問題となっており、⻑年かけて育てた木が数日で枯れてしまうといった深刻なケースも報告されています。
これらの被害は一度起きると回復に時間がかかるため、被害を防ぐ“予防的な対策”の重要性が年々高まっています。
シカ・イノシシによる森林被害の現状
ニホンジカ(シカ)による被害は、森林被害全体の約7割を占める深刻な状況です。
シカは植林地の苗木を食べるだけでなく、生⻑した樹木の樹⽪を剥ぎ取る「シカハギ」によって木を枯らしてしまうこともあります。
特にスギやヒノキなどの樹⽪が食害されるケースが増えており、木材の品質低下や森林の成⻑阻害につながっています。
一方、イノシシは地表を掘り返す習性により、竹林のタケノコやシイタケ原木を荒らすなどの被害を及ぼします。
苗木が根ごと掘り返されることもあり、森林再生の妨げとなっています。
こうした被害に対処するには、物理的な防除策で森林を動物から守る獣害対策と、必要に応じて動物の個体数調整(捕獲など)を組み合わせることも検討する必要があります。
獣害の面的対策と単木対策について
森林の獣害対策は大きく面的対策(広い区域を柵で囲って守る方法)と単木対策(個々の木を直接保護する方法)に分けられます。
面的対策
防護柵(フェンス)で林地全体を囲いシカやイノシシの侵入を防ぐ方法です。一度に広範囲を保護できますが、柵のどこかに隙間や破損があるとそこから侵入され、中の樹木すべてが被害に遭う恐れがあります。
そのため柵の高さはシカの跳躍力に対応して1.6m以上とし、下部も地中に埋め込む・折り返す等して動物がくぐれない構造にすることが重要です。
柵の素材には⾦属製と樹脂製があり、⾦属柵は頑丈ですが重く、樹脂ネット柵は軽量な反面破損しやすいなど一⻑一短があります。
単木対策
単木対策は守りたい1本1本の樹木に資材を巻き付けたり被覆したりして保護する方法です。
資材が万一破損してもその木だけの被害で収まり、他の木への波及を防げる利点があります。
対象木が少なければ柵より手軽ですが、多い場合は資材数や施工の手間が増大するため、面的対策と組み合わせて効率化する工夫も必要です。
単木対策を講じる際に特に注意すべきは、資材でカバーしていない部分を作らないことです。
実際、樹⽪保護資材を巻いた木で資材から露出した根元部分だけシカに剥⽪被害を受けた例が報告されています。
単木対策では、幹の根元からシカの届く高さまで余すところなく巻き付けることが重要です。
資材には耐用年数があるため、定期的に点検し、劣化・緩みがあれば補修・交換を行いましょう。
獣害対策に効果的な資材の活用例4選
樹皮剥ぎ防止ネット
シカの樹⽪剥ぎを防ぐため、幹にネットを巻き付けて物理的にガードする方法が広く採用されています。
柔軟なポリエチレン製ネットを幹に巻き付けて固定するだけで設置は簡便で、一度巻けば⻑期間幹を保護できるのが利点です。
スギやヒノキの造林地でも荒縄や樹⽪プロテクターと並んで幹巻きネットの利用が一般化しています。
■実例「知床でのネット活用」
北海道知床で、防鹿柵の維持が困難な代替策として植林木の幹全体を樹⽪剥ぎ防止ネットで覆う試験が行われました。
この試験にはグリーンコップの森林保護資材「ワイルド」が使用され、その結果、柵に頼らない有効策の一つとして高い効果が
確認されました。この製品は現在も森林再生現場で継続的に活用されています。
幼齢木保護ネット(苗木の個別防護)
植栽したばかりの幼齢木(苗木)には、一本ずつ筒状の資材で囲って守る方法が有効です。
ネットを苗木に被せてシカに食べられないようにすることができます。
苗木が約1.5mを超えるとシカの届く範囲を脱するため、その段階でシェルターを外して幹の剥⽪対策(テープ巻きなど)に切り替えます。
幼齢木保護ネットのような個別防護具は、急斜面など大規模な柵設置が難しい場所でも活用しやすい利点があります。
樹皮剥ぎ防止テープ
幹にテープを巻き付けて樹⽪を保護する方法も、簡便ながら効果的です。
幅広のポリエチレン製テープを巻くこの方法は低コストで施工も容易ですが、シカはもちろんヒグマの剥⽪被害対策としても有効である
ことが確認されています。
テープ巻きでは幹の根元からシカの届く高さまで隙間なく巻くことが肝心です(巻かれていない部分が露出すると狙われます)。
また毎年テープの緩みや劣化を点検し、必要に応じて巻き直すようにします。
枝条巻き付け法(森林残材の活用)
市販資材を使わず、その場にある枝葉で幹を守る工夫もされています。
岐阜県森林研究所が紹介する「枝条巻き付け法」は、間伐などで出た枝を捨てずに幹の周囲に巻き付けてシカの剥⽪を防ぐ方法です。
葉の付いた枝を下向きに幹の根元に密着させ、荷造り用テープなどで枝ごと幹に縛り付けます。
こうすると、枝がクッションと障壁の役割を果たし、シカが幹を直接かじれなくなるのです。
資材費ゼロで実践できる素晴らしいアイデアです。ただし、枝はやがて朽ちるため、防護効果を維持するには適宜新しい枝を追加する必要があります。
個人では困難な獣害対策。地域協力の重要性について
獣害対策は個人で行うには限界があるため、地域全体で協力して取り組むことが重要です。
シカやイノシシは人の土地境界に関係なく広範囲を移動するため、一部の山林だけ対策しても他所から侵入されてしまいます。
隣接する森林所有者同士で相談し合い、被害エリア全体を視野に入れて防除することが効果的です。
実際、複数の林業経営者が協力して広大な防護柵を設置したり、地域ぐるみで捕獲活動に取り組んだりして成果を上げている例があります。
自治体の補助制度を活用して共同防除に乗り出すケースも多いため、被害が深刻な場合は行政の鳥獣被害対策担当部門に相談してみてください。
行政や専門企業との連携も心強い支援となります。
専門機関から最新の知見提供や技術指導を受けたり、資材提供を受けたりすることで、個人では難しい大規模対策も実現できます。
産官学が連携し、地域一丸となって森林を野生動物被害から守っていきましょう。
獣害対策導入時の3つのポイント
1.コスト
限られた予算で最大の効果を上げるには、被害状況に見合った手法を選び優先順位を付けることが肝心です。
例えば頑丈な⾦網柵は高い効果を見込めますが設置費・維持費が大きく、逆に安価なネット柵や単木保護具は初期費用を抑えられる反面こまめな補修交換が必要になります。
将来的な補修・撤去まで見越して投資対効果を判断し、必要に応じて公的補助も活用してください。
2.施工性
山林内での作業は平地以上に労力を要します。
資材の運搬・施工が現実的に可能か、事前によく検討しましょう。
重い⾦属柵より軽量なネット柵を選ぶ、斜面では広域柵の代わりに苗木チューブを使うなど、地形・人手に応じた工夫が必要です。
積雪地であれば雪の少ない時期に集中して施工を行う、といった計画も大切です。
3.耐久性とメンテナンス
獣害対策の資材は設置して終わりではなく、継続して効果を発揮させる管理が不可欠です。
防護柵なら年に数回は巡回して倒木や破れを点検・補修し、幹巻き資材も毎年状態をチェックして必要に応じ交換する、といった体制を整えてください。
資材選定にあたっては耐用年数の⻑さも考慮しましょう。
おわりに
野生動物による森林被害を完全になくすことは容易ではありません。
しかし、ここで紹介したような対策を適切に組み合わせて根気強く実施すれば、被害を大幅に減らすことは十分可能です。
肝心なのは状況に応じて最適な方法を選び、対策を継続することです。
行政や専門機関から提供される知見や支援も積極的に活用しつつ、自分の森と地域の森を守る取り組みを進めていきましょう。